オーソン・スコット・カード(金子浩他訳)『無伴奏ソナタ』
なんとなくSF短編が読みたくなってタイトル買い。70年代末、作者のキャリアがはじまったばかりのときに出た短編集。最近映画化された『エンダーのゲーム』をはじめシリーズものばかり書いている印象だったので、これも通俗的なエンタメSFなんだろうと思ってよ読み始めて、冒頭の『エンダーのゲーム』の短編バージョンを読んでいるときはまだその思い込みをキープしていたが、2編目の『王の食肉』からあれっという感じになった。「王」の命令に従い、住民たちの身体の一部を肉として召し上げていく役割の男「羊飼い」に訪れる運命の変転を描いた作品。そして手がひれの形をした赤ん坊が便器にはさまって溺れかけているという強烈な悪夢的シーン(『四階共用トイレの悪夢』)。グロテスクなイメージの鮮烈さに度肝をぬかれる。
人間を神として崇拝するためにやってきた奇妙な宇宙人(『死すべき神々』)。徐々に失われていく現実感と死の受容を描いた『解放の時』。人類を飢餓と貧困から救い出す新天地であるかに見えた、宇宙空間に浮かぶセル上の人工的な浮遊物(『アグネスとヘクトルたちの物語』)。これらは哲学的と言ってもいいようないろいろ考えさせる。
そして、生まれた時に呪いを受けた少女の呪いをとく命と感情のないもの『磁気のサラマンダー』、表題作の『無伴奏ソナタ』はブラッドベリみたいにセンチメンタルだ。いい。こういう作品は大好きだ。
というわけで多種多様な作品がつまった名品揃いの短編集だった。