レイ・ブラッドベリ(小笠原豊樹訳)『刺青の男』

刺青の男〔新装版〕 (ハヤカワ文庫SF)

1951年出版。SFの古典中の古典。何をいまさらという感じだが多分未読。新装版のカバーにひかれて買ってしまった。偶然会った全身刺青の男の背中を見ながら野宿していると、背中の絵が物語を語りはじめるという趣向の18編からなる短編集。書かれた時期からしてもうそんなにセンス・オヴ・ワンダーは感じない。ブラッドベリ独特の詩情をしみじみと味わう、どちらかといえば退行的な読書体験だ。

けっこう地球以外の太陽系の惑星に生物が住んでいるという設定の話が多い。中でも火星が多いのは名作『火星年代記』の作者の面目躍如か。しかも印象的な話が多いのだ。

黒人ばかりが移民していた火星に、核戦争で荒廃した地球から助けを求めて白人たちがやってくる『形勢逆転』。布教のために火星に赴いたカトリックの神父たちが奇妙な生き物に出会う『火の玉』。地球ではオカルトや超自然的なものが一掃され、そういったものたちや彼らを生み出した小説家たちはなぜか火星で第二の生を生きていた。そこに地球人がロケットにのってやってきて戦いの火蓋が切って落とされる『亡命者たち』。致死性の伝染病にかかった男たちは火星に隔離されて短い余生をすごしている。そこに人に思いのままのイメージをみせられる特殊能力をもった男がやってきて、退屈と郷愁にあえぐ男たちの救いになるかに見えたが……という『訪問者』。そして、地球侵略にやってきた火星人の視点から、彼らをスポイルする地球の商業主義を風刺的に描いた『コンクリート・ミキサー』。火星を舞台にした作品はどれも粒ぞろいの傑作なのだった。

★★