ケリー・リンク(柴田元幸訳)『マジック・フォー・ビギナーズ』
妖精、ゾンビ、ホーンティドハウス、魔女、死者の霊、剣と魔法、エイリアンという昔ながらのB級ホラー、SFおなじみの道具立てが、インターネット、コンビニ、カルト的な人気を博す連続テレビドラマなどがある現代的な設定とまじりあって。今まで読んだことのない奇妙なファンタジーをつくりあげている。
収録されている作品は9編。それぞれの作品のストーリーを紹介しようとしても書いている間に実際の作品がそこからずれていることに気がつかされてしまう。そういう作品ばかりなのだ。それでも無理矢理一言ずつ紹介すると、お伽噺的な作品『妖精のハンドバッグ』と『猫の皮』、レイモンド・カーヴァーあたりが書きそうな『いくつかのゾンビ不足事態対応策』、生者と死者の結婚/離婚をユーモラスに描いた『大いなる離婚』、モンティ・パイソンみたいにスラプスティックなユーモア『大砲』、語り手が誰なのかわからなくなる『しばしの沈黙』、幽霊の代わりにウサギがでてくるゴースト・ストーリー『石の動物』、表題作のジュブナイル小説『マジック・フォー・ビギナーズ』、そして異世界の入口みたいな場所にあるコンビニを舞台にしたつかみどころのない物語『ザ・ホルトラク』、ぼくはこれが一番好きだ。
★★★