吉田篤弘『つむじ風食堂の夜』
実はずっとこの本のことが気になっていた。たまたま映画をDVDでみて、やっぱり予想した通り面白くて、ようやく原作に手を出した。結果、ものすごく忠実な映画化だということがわかった。
月舟町という、路面電車の走るノスタルジックな町が舞台。「雨降り先生」と呼ばれるしがない物書きの主人公は、夜な夜な近所の名前のない安食堂に通いながら、「二重空間移動装置」を売る帽子屋、古本屋の店主「デ・ニーロの親方」、眉間の皺がチャームポイントの舞台女優、オレンジに反射した光で本を読む果物屋の青年などそれぞれに個性的な人々とゆるふわな交流をする。そんな日常を横糸に、手品師だった亡くなった父親の記憶が縦糸としてからみ、最後には「ここ」にいながらにして「どこか遠く」へ連れて行ってくれる。
なんだか、この町にいってみたくなった。あ、でも仮にたどり着けたとしても、立ち止まったり、どこかに入り込んだりすることなく、通り過ぎてしまうだけなんだろうが。それでもいってみたい。