呉明益(天野健太郎訳)『歩道橋の魔術師』
著者名はカタカナではウー・ミンイーと書くらしい。 1971年生まれの台湾の小説家だ。内容紹介の中にあった「マジックリアリズム」という言葉に反応して読もうと思った。
台北にかつてあった中華商場という巨大なショッピングモールを舞台にした連作短編。ショッピングモールといっても職住一体となった庶民的なスペースだったらしい。1961年に完工し1992年に解体されている。著者はそこで生まれ育ったそうだ。本書に描かれているのは、著者と同姓代の、そこで育った子供たちの物語だ。
連作短編には各作品の裏で別の大きな物語が流れて最後にそれが前面で語られるものもあるが、本書ではそういうことはなく、各編は登場人物が多少重なるほかは独立している。短編集のタイトルの『歩道橋の魔術師』もその中のひとりで、ふだん商場の歩道橋の上で手品用品を売って屋上で寝泊まりしているが、奇妙な力を垣間見せる。
死や性がカジュアルなところや全編にただよう甘美な喪失感は初期の村上春樹作品を彷彿とさせた。村上春樹が好きだという登場人物がいるので、著者がある程度親しんでいるのは間違いないところだ。双子の女の子が主人公の男の子とからむ話もあって、オマージュだと思ってしまった。「マジックリアリズム」といっても村上春樹を経由したもののような気がした。
小さなエピソードを象徴的に積み重ねていくところは短編より長編向きの作家のような気がした。長編も読んでみたい。
★★