ジョン・グリシャム(村上春樹訳)『「グレート・ギャツビー」を追え』
厳重警備の大学図書館地下室からフィッツジェラルドの手書き原稿を、5人組の窃盗団が盗み出す場面から始まる。窃盗は計画通りに成功するが、ささいなアクシデントで身元が割れ、窃盗団のうち即座に捕まってしまう。派手な登場だったが、彼らは物語の主役ではなく、手書き原稿ともどもあっという間に退場してしまう。
代わって舞台に現れるのがブルース・ケーブルだ。彼は本書の原題になっているフロリダ州カミーノ・アイランドで成功した書店を経営している。彼が盗まれた手稿を入手し、保管しているという情報を探るため、こういった調査の経験のない新進女性作家マーサー・マンが送り込まれる。彼女がいわば物語の主人公だ。ブルースは敵役という感じではなく、徹底した快楽主義者ではあるが、バランスの取れた人間で、むしろ好感を感じる。彼の視点何語られることはないが、物語全体が彼を軸にしているという点では実質的な主人公と言っていいかもしれない。マーサーとブルースの洒脱な会話が本書を読む楽しみのひとつだった。
書物が題材のエンターテインメントということでとても楽しく読めた。ブルースとマーサーが登場する続編があるらしいので、そちらが翻訳されるのを待ちたい。
★★★