スチュアート・タートン(三角和代訳)『イブリン嬢は七回殺される』ebook

イヴリン嬢は七回殺される

年も押し迫ってきたところで、すごい作品に出会えた。間違いなく今年読んだミステリーの中でナンバーワン(他にミステリー読んでないけど)。

探偵が犯人を見つける単純なミステリーではなく、探偵役の主人公が失敗しながら同じ日を何度も繰り返すというギミックがついている。しかもそれぞれ別の人物の中に自分の意識だけが宿る。その数は全部で8人。その8人、つまり主観的には8日の間に、被害者イブリンを殺した犯人を見つけ出す必要がある。見つければこの世界から脱出できるが見つけられなければ記憶をすべて消されてまた最初からやり直すというのが、主人公に提示された条件だ。

主人公にはライバルがいて、探偵としての探索の物語と並行して、お互いの探り合いと争いを潜り抜けるという別の水準の物語が絡んでくる。謎も多層で、解決すべき事件のほかになぜ主人公たちはそこにいるのかというさらに根本的な謎が立ち上がってくる。

正直、ベースのミステリーの部分だけでも十分意外性が合っておもしろかったので、それだけにした方が一般のミステリーファンの受けはよかったんじゃないかと思わないでもないが(それだとぼくが読む可能性は限りなく低くなってしまうが)、8回繰り返すというギミックを入れることで、人物描写が深くなった。同じ人や出来事を複数の人間の目からみると違う側面が明らかになる。一見乱暴な行為に隠された事情があったり、見るからに善意の人が悪事に手を染め、打算だけで行動していたりする。

人は変わりうるというメッセージが伝わってきた。勇気づけられるいいラストだった。

★★★★