プルースト(高遠弘美訳)『失われた時を求めて 第三篇 ゲルマントの方へ』第一部
これまで第一篇『スワン家の方へ』、第二篇『花咲く乙女たちの影に』と、篇ごとに読み進めてきたが、今回は第三編の前半第一部だけ。というのも第6巻がでて、これで第三篇が完結したと勘違いしてしまったからだ。実は第三篇は三分冊で第7巻まで続くのだ。
語り手一家がパリのゲルマント公爵とその夫人が住むアパルトマンに引っ越したところから。祖母の同級生ヴィルパリジ夫人の家も近所だ。そして語り手の父の友人の元大使ノルボワ氏がヴィルパリジ夫人の愛人であることが明らかになる。語り手はゲルマント公爵夫人にほのかな恋心をいだくがすげなくされ、とりついでもらおうという邪な目的で、友人サン・ルーの連隊が駐屯するドンシエールへと赴くが、そこでサン・ルーやその同僚との友情を温める。帰りはサン・ルーとその愛人とともにパリに戻る。
サン・ルーにいわれて語り手はヴィルパリジ夫人の内輪のサロンに参加する。この場面がコミカルでおもしろい。ノルボワ氏、公爵夫妻、シャルリス男爵、ユダヤ人の友人ブロックなどこれまでの主要人物がいれかわりたちかわりあらわれ、サン・ルーの母親マルサント夫人が初登場。サン・ルー自身も遅れてやってくる。語られる話題の幾分かはドルフェス事件(ユダヤ人の将校がスパイのえん罪を着せられた事件)とそれに関連した反ユダヤ主義に関するものだ。
プルースト自身は同性愛者で母親がユダヤ人という二つのマイノリティ属性をもっているが、語り手にはその属性は付与されていない。この先で同性愛は大きなテーマとして登場するようだが、ユダヤという属性についてもこの篇で触れられているわけだ。今のところ語り手は社交界へのあこがれをもっているが、この場面はそこに参加する人々の愚かさや醜さを赤裸々に描いている。プルーストはあえて第三者的にこれらの問題を扱おうとしているのかもしれない。
そして祖母の病気という問題が提起されて、後半へと続いてゆく。プルーストが設けた区切りにしたがって読もうとして第一部、すなわち第6巻の半分まで読んだのだが、物語的には中途半端だ。むしろ巻単位の方が区切りがよかったのかもしれない。
★★★