伊藤亜紗『どもる体』
画期的な本。
吃音に関しては、改善方法か主観的なつらさについてしか語られてこなかったが、本書では吃音をどうにかしようというのでなく、それがあることを前提に、客観的にどういうものなのか、的確な比喩を使ってわかりやすく説明している。
吃音は、そもそも自分の体(この場合は発声器官)をコントロールしきれず半ば勝手に動いてしまうというもので(連発)、そのコントロールをどうにかとりもどそうと対処することで、難発という別の症状になってしまう。さらにその対処として、言いにくい言葉の言い換えという方法を生み出す。それで一見なんの問題もなく話せている人(隠れ吃音と呼ばれる)もいるが、実は裏では非吃音者が話すのとはまったく違う処理をして話している。中にはそれが不自然でたまらなく嫌で。あえてどもることを選択する吃音者もいる。
吃音者は、自分でその現象自体を恥として否定し、いざ向き合う時には克服すべき対象になってしまうことが多いと思う。本書はその呪縛を解き放ちニュートラルに吃音に向き合わさせてくれる。また、非吃音者が読んでも、人口の1%いるという吃音者について正確な理解が得られるだけでなく、完全に一体だと思いこんでいる心と体の関係を見直す示唆を与えてくれるはずだ。
こういう本が生み出せたのは著者の伊藤亜紗さんが隠れ吃音ということがあってこそだろう。そうでないと吃音者の細かい心理はどうしてもわからないところがでてくると思う。当事者の一員としてとても勇気づけられ、かつそれを離れた俯瞰的な視点を与えてくれる一冊だった。
★★★★