マーク・トウェイン(柴田元幸訳)『ジム・スマイリーの跳び蛙 —マーク・トウェイン傑作選—』ebook

ジム・スマイリーの跳び蛙: マーク・トウェイン傑作選 (新潮文庫)

マーク・トウェインといえばトム・ソーヤーハックルベリー・フィンといってしまうのは素人。SF、歴史物、そして晩年は幻想的で奇妙な味わいの作品も書いている。柴田元幸さん編訳ということでさぞかしマニアックなチョイスをしているんだろうと思ったが、短いほら話というような作品がメインで驚いた。いや、収録されている『物語の語り方』という一種の文学論でトウェイン自らがいうように彼は内容よりも語り口を重視した作家なのだ。確かに彼一流のユーモア溢れる語り口を堪能できるチョイスだった。

収録されているのは13編。印象に残ったのはトウェインの南北戦争従軍体験を描いた『失敗に終わった行軍の個人史』、そして夢をテーマにして幻想的な『夢の恋人』だ。前者の中から最後のフレーズを引用しよう。

そんな私も、ひとつのことを学びはした。退却のことなら、退却というものを発明した人間以上に私はよく知るい至ったのである。

そして、おなじ作品からもうひとつついで引用しておこう。

そしてこれが戦争というものの縮図に思えた。すべての戦争は、まさにこういうことにちがいない——自分が個人的には何の恨みもない赤の他人を殺すこと、ほかの状況であれば困っているのを見たら助けもするであろうしこっちが困っていたら向こうも助けもするであろう他人を殺すこと。