筒井康隆『メタモルフォセス群島』
『おれに関する噂』に続いて筒井康隆のオリジナル短編集を読み返そう企画第2弾。こっちには絶対はずせない名作『走る取的』と『毟りあい』(野田秀樹演出の舞台『THE BEE』を見たので割と記憶に新しい)が収録されている。前者は逃げても逃げても追いつかれ自ら逃げてはいけないほうに逃げてしまう、悪夢のなかにいるようなリアリティがほんとうにおそろしい作品だ。
筒井康隆はSF作家と名乗っているわりには純然たるSF作品は少ないのだけど、本書には2編収録されている。水爆実験で放射能に汚染された島に発達した奇妙な生態系を描いた表題作の『メタモルフォセス群島』、丘陵に沿って階段状に微妙に異なる並行世界が並ぶ天変地異が起きた町が舞台の『平行世界』はどちらも傑作だ。
初期の筒井康隆の真骨頂はSFではなくブラック/スラプスティックコメディーだと思う。本書でも往年のテレビシリーズのパスティーシュ『老境のターザン』、本格歴史小説?『こちら一の谷』などが収録されている。
あらためて読んで気がついだけど、意外に昭和のサラリーマンの生態を描いたサラリーマンものと言っていいような作品が多いのだ。『喪失の日』なんかまさにそうだし、『五郎八航空』は会社を馘になるのが怖くて台風の中無免許のおかみさんが操縦するオンボロの飛行機に乗る話だし、『定年食』は会社の定年制度がそのまま人生の定年制度に取り入れられてしまった近未来の物語だ。
あとそのまま落語の高座にかけられそうな『母親さがし』がいいし、『特別室』はどこに連れていかれるかわからない奇妙な味で隠れた傑作だ。