入不二基義『あるようにあり、なるようになる 運命論の運命』
テーマは運命論。といってもすべての出来事は自然法則により決まっているという因果的決定論ではなく、人間が出来事を物語として解釈したものを運命と呼ぶ解釈的運命論(これは運命「論」というより「運命」という言葉の一つの用法のような気もするが)とも異なる論理的運命論という立場が取り上げられている。タイトルの「あるようにあり、なるようになる」というのがそれがどういう考え方であるかを端的に言い表している。
何かを言ってそうで何も言ってないような言葉だが、前半の「あるようにあり」というのは一つしかなくすべてを覆い尽くしている現実の中ではある事態が成立しているとすればそれが成立していないということは考えられない、つまり必然であるということ。後半の「なるようになる」は現在がやがて過去になり未来がやがて現在になるという等質な時間原理のもとでは未来の出来事も過去や現在の出来事と同様それが起きるか起きないかは定まっているということを言っている。
これは現実や時間についての特定のモデルを仮定しての話なのでそれぞれカウンターパートが用意される。現実に対しては論理(言語)、等質的な時間原理に対しては、未来どころか過去も現在もバラバラに解体されて無関係になってしまうような別の時間原理が提示される。そしてそれでもやはり運命論の主張は成立すること、そしてそれぞれの対立する原理の間には相補的な関係があってそのダイナミズムが運命論を駆動するが示される。
段階を追って丁寧に書かれているので入不二氏のこれまで読んだ本の中では一番わかりやすかった。いつもながら極端を突き詰めて抽象的すぎてほとんど何もないと思われる領域に新たな概念を生み出していくのは見事だ。でも、そこに行く前にもっと検討すべきことがあってもよかったと思う。
具体的には、今回の論理的運命論のベースである全一的で唯一の現実と等質に推移する時間のカウンターパートには、それぞれ可能世界的に並立する多数の現実と、分岐する時間原理をあてるべきだったんじゃなかろうか。そういうSF的なのは考慮に値しないということなのかもしれないが。
エピローグで紹介されるドニ・ディドロ『運命論者ジャックとその主人』という小説がとてもおもしろそうで読んでみたくなった。
本の内容と関係ないが、Kindle版で読んで不便を感じたのでいくつか要望を書いておく。
- 註にはリンクを貼ってほしい
- 移動の目次はなるべく細かく章単位まで載せてほしい
入不二基義氏の著作で読んだもの