松浦寿輝『半島』
ぼくももう立派に(というよりあまり立派じゃない)中年の一員だけど、中年期というのは、青年期のようにものの価値や美に執着する性向と、そういうものは所詮仮初のものだし取り逃し続けたって別にかまわないという諦観と解放感が入り混じった態度に引き裂かれているもので(そのどちらも「自由」と呼ぶことができる)、ちょうどこの小説の主人公迫村もそんなどっちつかずの状態で、大学教師の職を辞め、自由を求めて、瀬戸内海に突き出した半島(というか実際の舞台はその半島と橋で結ばれている島)にやってくる。そこで彼はさまざまな不可思議な人物や出来事に翻弄される。
なんか永井荷風のような美文調で枯れた小説かと思っていたら、奇想、冒険、メタファーてんこもりのファンタジー小説だった。この島の構造(空間的な構造と人間関係の構造)がエッシャーの描くだまし絵のようでとても魅力的だった。
お勧め★