ジャック・ケルアック(福田実訳)『路上』
四度にわたりアメリカ全土(+メキシコ)を横断した破天荒な体験を、詩的で象徴的な文章で、小説としてまとめあげた記念碑的な作品だ。この作品を通してアメリカという国がもう一度発見されたのだ。
最初の旅は、路上をかけぬける爽快感と解放感に身をまかせていられたが、二度目以降は旅の疲れにおそわれて読み進めるのがつらくなってきた。主人公サル・パラダイスにしてからも、旅を続けることができたのは、盟友ディーン・モリアーティの存在があったからだろう。ディーンは自分の欲望を第一原理として行動するはた迷惑な人間ではあるが、そのあふれんばかりの生命力と行動力は、有限の世界や人生をあたかも無限であるように感じさせてくれるのだ。
とはいえ、終わってしまった旅には空虚感がまとわりつくもので、その空虚感から逃れてもうひとつ新しい旅を創造するためにケルアックはこの作品を書いたような気がする。ぼくもまた、(スケールは圧倒的に小さいが)毎週路上に繰り出して東京を横断し、そのことを書かずにはいられない。
河出文庫版はかなり苦労して訳出したというのがありありとわかるような翻訳なので、ハードカバーで値段は高いけど、最近出た青山南訳の『オン・ザ・ロード』を読んだ方がいいかもしれない。