舞城作品には珍しく動ではなく、静からはじまる。人里離れた山ん中の静けさ、そこで書の道を究めようとする、背中にたてがみのある少年。だが、そこに不可避的に暴力が侵入してきて、少年の隠された獣性を呼び覚ます。
図式的にはいつものように、即物的でグロテスクな暴力が、ピュアなものに対する信仰に近いような肯定によって乗り越えられるという構成だったけど、民俗学的な山の民、隠れ里のエピソードが新鮮だった。
舞城作品のもうひとつの特徴が独創的な擬音だけど、この作品ではかなり重要に扱われている。「しゅりんこき」、「ブルルングガー」、「サガーワンワン」、「にしりしりしりしり」。それぞれ何の音でしょう?