奥泉光『新・地底旅行』

新・地底旅行

時は明治末、挿絵画家野々村某は、真新しい独逸製の写真機に目がくらみ、朋友富永丙三郎、理学者水島鶏月、屈強で勤勉な女中サトとともに地底探検の旅に出ることになる。

夏目漱石作品の時代背景とユーモラスな文体、ヴェルヌの『地底旅行』のモチーフ、グレッグ・イーガンばりのハードSFのアイデアをごった煮にしたらこんなおいしい料理ができちゃいましたという感じ。奥泉光(地底の「奥」で「泉」に流されて「光」に囲まれるという、この小説のストーリーを暗示するような名前だ)はもっと地味で緻密な作品を書く作家かと思っていたが、文章でこんなアクロバティックなパフォーマンスができる人だとは思わなかった。

夏目漱石で一番好きなところはその「軽さ」だが、この作品にも文体だけでなく、その「軽さ」が受け継がれているような気がする。それは、どちらも新聞の連載小説として書かれたというところからきているのかもしれない。