飯沢耕太郎『写真とことば』
写真の代わりに写真家の書いたことばをまとめた写真集といえばいいだろうか。大正から現代までの日本の写真家25人の文章が収録されている。一応、名前を列挙すると、野島康三、萩原朔太郎、安井沖治、福原信三、山端庸介、土門拳、木村伊兵衛、田淵行男、濱谷浩、常盤とよ子、高梨豊、森山大道、荒木経惟、植田正治、桑原甲子雄、大辻清司、東松照明、長野重一、一ノ瀬泰造、内藤正敏、中平卓馬、石内都、鈴木清、畠山直哉、星野道夫。写真という文化についての教養がない(と書くと技術はあるみたいだが、もちろん技術もないし熱意すらない。誇れるのは惰性だけ)ぼくには半分以上知らない人だ。
文章はほんの数ページの短いもので、必ずしも写真と切り離して読んで面白いものばかりではないけれど、それぞれの個性が十分すぎるほどうかがえる。写真家なので当然自分の作品や写真全般について語っているのだけど、文章を写真と同様の表現の手段と心得ている人も何人かいて、特に石内都の「暗室」という文章は鮮烈なイマジネーションにあふれている。
「黒と白に染め上がった布と私は、洗濯バサミでつままれ、水滴をボタボタ垂らしながら、物干し竿にぶら下がっている。隣にぶらさがっている布に、君は印画紙ですよねと聞くと、いいえ私は布です。あなたが印画紙です、と答えた」。ううん、シュール。