スコット・フィッツジェラルド(村上春樹訳)『グレート・ギャッツビー』

グレート・ギャツビー

ギャッツビーはやるせない夢にとりつかれ、虚飾で自分を飾り立てようとした男だ。その彼にグレートなところがあるとすれば、その夢に向かってひたすらまっすぐ進んでいき、あと少しで手にいれるところまでたどりついたところだろう。だが、その夢は彼以上ににせものだった。

よくできているが単純なストーリー。なんといっても文章がすばらしい。訳者の村上春樹はあとがきで相当苦労したというようなことを書いていたけど、その苦労は十分報われていると思う。ただ、墓地でフクロウ眼鏡の男がいう"The poor son-of-a-bitch"という言葉を「なんともはかないものだ」と訳しているのは、意味は的確なのかもしれないけど “son-of-a-bitch"のもつ慨嘆がそがれていると思う。

末尾の文章がとびきりにいい。「だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながらも」。