ダグラス・アダムス(安原和見訳)『さようなら、いままで魚をありがとう』

さようなら、いままで魚をありがとう

『銀河ヒッチハイク・ガイド』シリーズ三部作の第四作なんて呼ばれるのは、作者はもともと三作で完結させるつもりだったからだが、とはいえ別に第三作『宇宙クリケット大戦争』の最後で何がどうなったというわけでもないので、続けて十分OKだろう。

さて、続きとはいうものの、今回はかなり毛色が変わっている。たぶん作者は「文学」をやってみたくなったのではないだろうか。SF色が薄く、はちゃめちゃなギャグはかなりセーブされている。その代わり文章はかなり凝っているし、これまで単なるまぬけとしか描かれずほとんど感情移入ができなかった形だけの主人公アーサーの内面が描かれている。今回は、彼の恋愛が主要なエピソードなのだ。

物語のテンポが今ひとつで、必ずしも成功しているとはいえない新機軸だったけど、ただラストの神の残した最後のメッセージを見たエピソードには、ちょっと心が揺さぶられた。「いままで、ありがとう」と声をかけたくなった。