ウンベルト・エーコ(藤村昌昭訳)『フーコーの振り子』(上・下)
最初、神学的で難解かと思ったが、コミカルなミステリー仕立てで物語は進んでゆく。
卒論のためにテンプル騎士団を研究していた語り手カゾボンはそのことがきっかけで書籍の編集者ベルボ、ディオッタレーヴィと懇意になり、古来からの陰謀や秘密結社をめぐる事件に巻き込まれる。彼らはおもしろ半分で陰謀論を作り上げてゆくが、それが精緻になるにしたがい、嘘だとわかりつつそれをどこかで信じるようになってゆく。やがて、ほんものの秘密結社がそれをかぎつけ……。
ネタをネタと見抜けないやつはだめだとかいうが、自分だけが見抜いたとしても、それを真に受けている人間の間ではまったく無力だ。テンプル騎士団の謎の中核にある暗号文(?)のほんとうの意味はあっけなく明らかになるのだけど、もう動き出した振り子をとめることはできない。陰謀論がやばいのは、それが嘘だからではなく、ほんとうになってしまうからなのだ。