宮部みゆき『ブレイブ・ストーリー(上・下)』
二年前に上巻だけ買ったものの、あまりの厚さに持ち歩くことができず、積み重ねた本を支える支柱の役割を果たしていた。別の本を探していたらたまたまこれが発掘されたので、ようやく読む気になった。
小学五年生の主人公ワタルの「現世」での生活を描いた第一部の途中までは、子供向けのぬるいファンタジーだと思っていたが、物語が進むにつれてその予想はあっさりと裏切られた。彼は彼なりのシリアスな理由で旅をし、数々のシリアスな出来事に巻き込まれてゆくのだ。
ファンタジー世界の倫理というのは間に合わせでちょっとこれはどうかと思わせたりもすることもあるのだが(単純な善悪二元論だったり、人種差別的な偏見が感じられたり)、この作品に関しては、とても深みのある世界観、倫理観が構築されていると思う。宮部みゆきは単なるエンターテインメントの小説家でなく、一級のモラリストでもあると、認識をあらためた。「人の子の生に限りはあれど、命は永遠なり」なんてまるでスピノザがいいそうな言葉だ。
この夏に映画が公開されるそうなので、そのタイミングで文庫化される可能性大だが、単行本も手首の運動になっていいと思う。