多木浩二『ものの詩学 家具、建築、都市のレトリック』
独特な視点からヨーロッパ近代の歴史をたどった本。そういう意味では「詩学」というより「史学」だ。
4章構成。第1章は、椅子やベッドなどの家具の形状に注目して、それがルイ14世時代の王権の絶対化とどのように相互作用をしていたかを明らかにしてゆく。たとえば、椅子の背もたれは王の権威の高まりとともに傾いていった。そして儀式や空間配置が権力を実体化してゆく仕組みを解き明かす。
第2章は、フランス革命期のブルジョアジーの時代。ここでは絶対王政の時代には沈潜していた身体の快楽が表面にあらわれてくる。今アートと呼ばれているものは、この時期、美術館の誕生とともに、いままで雑多なコレクションに埋もれていたなかから浮き上がってきたものだ。同時に博覧会の開催によって、商品というあらたなものがアートと裏表の関係で誕生した。
第3章は19世紀後半のバイエルン国王ルートヴィヒ2世にスポットライトをあてる。彼は財政状況を無視して城をたてまくったが、それは実質をなくした王権に対する時代錯誤なあこがれが生み出したものだった。それは結果としてその当時すでに文化的へゲモニーをにぎっていたブルジョアジーたちのキッチュなまがいものを再生産する文化と歩調をあわせたものになっていた。
最終章はヒトラーの時代。家具、アート、城ときて、ここで対象となるのは都市だ。ブルジョアジーにかわってついに大衆が力をにぎる。歴史が進む中で「もの」の領域がどんどん広がっていって、ついに人間を「もの」にすることによって、ヒトラーの都市は完成したのだった。
ちょっと難解だが、ぼくらがその形で存在するのが当たり前だと考えているものの中に、たくさんの歴史的コードが埋め込まれていることを教えてくれる本だった。