ウンベルト・エーコ(和田忠彦訳)『ウンベルト・エーコの文体練習』
捜し物をしていたら読まないまま埋もれていた本書を発見した。結局捜し物は見つからなかったので、本書が唯一の収穫だ。
『薔薇の名前』(ぼくは映画でみただけだが)で有名なエーコのパロディー中心の短編集。どの作品も何をどのようにパロディーにしようとしているかくらいまでは理解できるのだが、実際笑えたのはあまりなかった。こちらに文学的・文化的な素養が欠けているのと、難解な文体のものが多いのと、その難解さをうまく翻訳がこなせてないように思われること(実際どうかはわからないが)などいくつか原因があった。
その中で『ロリータ』のパロディー『ノニータ』はふつうにおもしろいし(どういうパロディーかは読まなくても想像がつくと思う)、パロディーとはちょっとちがうが、『クオーレ』の主役エンリーコの凡庸さを非難して悪ガキフランティを讃える『フランティ礼賛』には激しく同意したくなる。一番好きなのは絵の中と現実とその現実を含む物語が入り交じる『新入り猫の素描』だ。絵の中から家の外に出たら雪が降ってくる場面が幻想的でいい。
★★