バリー・ユアグロー(柴田元幸訳)『憑かれた旅人』

憑かれた旅人

『セックスの哀しみ』に続いて、ユアグローを読む。テーマは「恋愛」から「旅」に変わっているが、主人公(たち)の情けなさはより徹底してきている。それは、最後のストーリーで飛行機事故で幽霊になった主人公がようやくめぐりあった恋人にいわれる一言で語り尽くされている。

「そんな話、聞きたいわけないでしょ。孤独な、根無し草の男が、変てこな、おおかたは無駄に過ごした生涯にあれこれの災難に巻き込まれた話なんて!」

まさにその通りで、全作品をまとめて読むとそういう印象が残ってしまう。おまけに、ぼく自身情けなさの権化のような人間なので、同じ種類の情けなさにふれると、いたたまれなくなるとともに、過剰な自虐性が腹立たしく思えてくる。

でも、詩を読むように一編一編切り出してみると、単なる奇想に終わらない叙情がとても美しくもある。『あぶく』の空の旅、『雪-古い北国の物語』の北国の都市の風景、『雲 ピクニックの物語』の空中楼閣、貨物列車の中から見上げる月、森で出会うぬいぐるみのクマ。

★★