3編収録の中短編集。 表題作の『工場』は巨大な工場で働く立場の異なる3人の目から「工場」という不条理空間を描いた作品。不条理と書いたがこの工場はごく普通の日本の大企業であり、そういう場所を経験したことのある者からみたらごく日常的なことしか起きない。むしろ今の標準的な労働環境からみれば恵まれているといえると思う。ただ、契約社員、派遣、正社員と立場の異なる3人からは、この奇妙な身分制度の不条理が浮かび上がってくるし、「工場」は一定期間ぬるま湯の空間を提供する代償として彼らの自己実現を阻みとことんスポイルしようとする。これはこの「工場」に限ったことではなく、日本の会社というシステムに共通するものだ。それを奇を衒わずに描いただけで不条理文学になる。 ...