三好十郎が敗戦から5年後の1950年に書いた戯曲作品である。戯曲の形式をとっているものの、必ずしも舞台上演を前提としたものではなく、実際に上演された記録も残っていないようだ。夜道を歩きながら二人の男性が対話を交わす構成であるため、演劇としての上演が難しかったのかもしれない。 ...
休憩2回挟んで4時間の長尺。舞台の上でとりたてて何かがおきるわけではないのに、飽きることはまったくなかった。 戯曲の冒頭に「時…現代」と書いてあるが、その現代というのは1940年。太平洋戦争がはじまる前年だが、すでに日中戦争は泥沼に入り、物資も不足するようになっていた。主人公の画家久我五郎は結核を患う妻美緒の療養のため千葉市郊外の海岸で暮らしている。彼自身は創作意欲を失い、絵本の仕事で食いつないでいるが、家賃も満足に払えず借金を重ねている。役者は12人登場するがこの夫婦2人の物語といっていい。 ...