『(霊媒の話)題未定—安部公房初期短編集—』

安部公房の作家デビュー前後に書かれた、生前未発表の作品を集めた作品集。けっこう後の作品とは毛色が違う。安部公房らしいクールで簡潔な文体とシュールな物語展開はどこにも見当たらなくて、文体は修飾が多くて晦渋でストーリーは観念的なのだった。なかなか身が入らなくて読むのに時間がかかってし...

M&Oplaysプロデュース『峠の我が家』

これまでみてきたなかで一、二を争う難解な作品。岩松作品はもともと登場人物の心の動きが、饒舌に本心を隠す形で難解になるのが味なのだが、今回はその本心がなかなか見えない。しかもストーリーも錯綜としている。 あまりネタバレにもならないと思うのでストーリーを書き下してみる。 季節はずれで休業...

『ピローマン』

とある独裁国家の警察の取調室が舞台。売れないショートストーリーを書きためているカトゥリアンはトゥポルスキ、アリエルという二人の刑事の取り調べを受けている。最初カフカ『審判』のような不条理な告発かと思うが、カトゥリアンの書く陰惨な物語をまねた子どもの連続殺人事件が起きていることがわ...

川端裕人『ドードーをめぐる堂々めぐり - 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』

ドードーといえば絶滅した鳥の代表格で、『不思議の国のアリス』などさまざまなフィクションのなかに登場する飛べない鳥だ。インド洋の無人の孤島モーリシャス島に生息していて1598年にオランダの探検隊に発見され、1662年には絶滅したとされている。人間の直接的な捕獲より島に移入された猿や...

劇壇ガルバ『ミネムラさん』

峯村リエさんは、これまで何回も舞台を見てきて大好きな俳優さんだけど、タイトルになっているとは、どういうこと?という感じだったが、思いがけずいい舞台だった。 3人の作家による3つの短編だが、それを順番に別々のものとして描くのではなく、枠物語の構造にして有機的に組み合わせる演出が成功し...

町田康『宇治拾遺物語』

現代語訳というよりかは音楽でいうところのカバーというのが近そうだ。 古典の説話集『宇治拾遺物語』のなかから33編選んで、ストーリーは細部を含めて同一のまま語り口をカタカナ言葉や関西弁が入り混じる、いかにも町田康調のはっちゃけた感じに置き換えている。たとえば『奇怪な鬼に瘤を除去される...

イキウメ『小泉八雲から聞いた話 奇ッ怪』

次の小泉八雲の怪談5篇が百物語的に舞台上で物語られる。 常識 破られた約束 茶碗の中 お貞の話 宿世の恋 『宿世の恋』は『牡丹灯籠』の再話だがそれ以外は耳馴染みがなかった。個人的には『茶碗の中』がシュールでおもしろかった。 過去の怪談話と並行して、警察の遺体安置所から死体が行方不明になる現代進...

柞刈湯葉『未来職安』

近未来の日本。仕事はほぼロボットとAIによって代替され、人々にはいわゆるベーシックインカムであるところの「生活基本金」が全市民に支給され、人口の99%にあたる「消費者」と呼ばれる人々は労働をせずに暮らしている。残りの1%が「生産者」と呼ばれ、労働に携わっているが、必ずしも特別な能...

ナイロン100℃『江戸時代の思い出』

ナイロン30周年記念公演の第2弾とのことで実際31年周年だがそこがナイロンらしい。自分がそのうち25年間みてきたことにびっくりだ。 江戸時代の峠の茶屋みたいなところで二人の男がすれちがい、そのうちのひとり町人の風体の武士之介が武士の風体の人良に自分の思い出話を無理やり聞かせようとす...

高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所編『宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する』

あちこちで聞きかじったあやふやな知識を整理しておこうと読み始めた。 量子場というのは計算の便宜を図るものくらいに考えていたら実は本質的なもので、今まで粒子だいや波だと言っていた素粒子の実体はこの量子場の励起状態と考えたほうがいいらしい。素粒子の種類ごとにこの場が宇宙全体に広がってい...