グレッグ・イーガン(山岸真編訳)『ビット・プレイヤー』

イーガンの日本で編まれた6冊目の短編集。とはいえ、今回は短編というには少し長めの作品ばかりだ。 『七色覚』は遺伝的な障害を逆手に色覚を人為的に拡張した人々のたどるその後の人生。ちょうど色覚に関する解説記事を読んでいたので、理解しやすかった。苦い結末になりそうでならなかったのはイーガ...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『シルトの梯子』

約2万年先の未来。最新の理論では1/6兆秒で崩壊するはずの構造から別の宇宙が誕生し、際限なく広がりわれわれの宇宙を侵食しはじめる……。 最近読んだイーガン作品は人類以外の異形の知的生命が主人公だったが、今回は未来のぼくたちホモサピエンスが主人公だ(後半、異形の生物もでてくる)。とい...

グレッグ・イーガン(山岸真、中村融訳)『アロウズ・オブ・タイム』

直交三部作もいよいよ完結編。母星への帰還の時期が舞台かと思っていたが、そうではなく《孤絶》搭乗者の第6世代、Uターン前後の時期がメインだった。 辞書を引くまでもなくタイトルは『時の矢』。本巻の探求のターゲットは時間だ。これまでの巻でこの直交世界では時間を逆行できることが示唆されてい...

グレッグ・イーガン(山岸真、中村融訳)『エターナル・フレイム』

この世界とはちがう物理法則をもつ世界を舞台にした三部作の二作目。 母星の危機を救う方法を見つけるため、山をまるごと宇宙に吹き飛ばして何世代にもわたる旅に出た《孤絶》の一行。第一作では《孤絶》の出発と搭乗した最初の世代が直面する問題が描かれたが、本作ではそれから3世代あとの第四世代の...

グレッグ・イーガン(山岸真、中村融訳)『クロックワーク・ロケット』

異形で独自の生態と文化を持った知的生物が科学技術で世界の有り様を探るなかで危機に気がつきそれを乗り越えようとする姿を描いているのは『白熱光』も同じだが、そちらではぼくらの住む宇宙の中の話だったが、本作では別の物理法則を持つ別の宇宙が舞台になっている。 ぼくたちの宇宙の相対性理論は時...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『ゼンデギ』

読み始めて全然SFじゃないのであれっと思う。第1部はほぼ現代といっていいような数年先の(といっても設定は2012年なのでもう過ぎてしまったが)のイラン市民革命を舞台に、現地で取材するオーストラリア人マーティンと、アメリカに亡命して遠くからそれを見守る若いイラン人女性研究者ナシムが...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『白熱光』

奇数章と偶数章で異なった人々による異なった世界の物語が語られる。 「百万年後の未来, 銀河系は二つの世界にわかれていた。融合世界とよばれる、巨大な相互協力的メタ文明と、銀河中央部を静かに占有する孤立世界。孤立世界は融合世界が彼らの領域に侵入することを長らく拒んできたが、旅人がショート...

グレッグ・イーガン(山岸真編・訳)『プランク・ダイヴ』

これまでイーガンを読み継いできた読者からすると、決してあたらしいアイディアが書かれているわけではない。高速なコンピュータ上で進化をシミュレートして生み出される知的存在。脳をクローンに移植して得られる永遠の生命と、自分とは何かという問。異なる数学的原理に支配される、隣接する二つの世...

グレッグ・イーガン(山岸真編訳)『TAP』

グレッグ・イーガンの邦訳されていない短編もそろそろ残り少なくなってきて、鍋の残り汁みたいな短編集なんだけど、イーガンらしくないSF的にソフトな作品やホラータッチの作品も含まれていて、別の面を垣間見させてもらった。でもやっぱりおもしろいのはイーガンらしい作品だ。イーガンというとハー...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『ひとりっ子』

日本独自編集の短編集の第3集。オールタイムの作品から選んでいるので、インパクトが小さい作品か、科学的に難解な作品が多くなってきているのは仕方ないところだろう。 『行動原理』、『真心』ではナノマシンを使って精神の特性を改変する。『ルミナス』は普遍的だと思われている数論にもし成り立たな...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『順列都市(上・下)』

人間がソフトウェアになってコンピュータの中で生き続けるという設定はグレッグ・イーガンでは定番だが、これはその比較的黎明期を舞台にした物語。『ディアスポラ』では外部の1000倍の速度で流れていた時間が、この時代には逆に17分の1の速度で流れている。それも「生前」大富豪だった限れた人...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『ディアスポラ』

年代記形式でいくつかのエピソードを絡み合わせ、はるか彼方への孤高で孤独な旅の軌跡をたどってゆく。 紀元30世紀。人類のほとんどは仮想現実の世界でソフトウェアとして生きていて、ほぼ永遠といっていいような生命を得ている。たいていの「人間」親となる数名の精神の要素を組み合わせることによっ...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『万物理論』

死者を一時的に蘇らせたり、自分のDNAを別の分子で書き換えてあらゆる感染の危険性を0にするなど、バイオ技術が究極まで進んだ2055年、物理学の分野でもすべての自然法則を説明する究極の理論「万物理論」が発表されようとしていた。主人公はこの万物理論に関する会議を取材にきた科学ジャーナ...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『宇宙消失』

久しぶりの長編SF。 突然夜空の星が消失するという現象から30年後の世界。ナノテクを使ってシナプスを自在に結線し、さまざまな機能をインストールしたり、感情をコントロールすることが可能になっている。元警官で探偵の主人公は、病院から行方不明になった全身麻痺の女性を探してほしいという依頼...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『祈りの海』

最初に読んだ『しあわせの理由』ほどの衝撃は感じなかったが、粒ぞろいの短編集だ。技術の発達や極限的な状況でのアイデンティティの揺らぎがテーマになっている作品が多いのだが、その中で、ほとんどの場合主人公は倫理的な選択をするのだ。それがイーガンの作品で一番好きなところだ。 ★★★...

グレッグ・イーガン(山岸真訳)『しあわせの理由』

1961年オーストラリア生まれのSF作家グレッグ・イーガンの日本独自編集の短編集。翻訳は、こういうSF作品によくあるいまひとつな翻訳のような気がするけど、作品のセレクトはすばらしい。 SFという言葉のScience Fictionのほかのもうひとつの意味、Speculative Fan...