コンプソンズ『何を見ても何かを思い出すと思う』

何を見ても何かを思い出すと思う

なんと今年初めての観劇。演劇という習慣がぼくの人生からドロップしそうな雰囲気を感じていたところで、偶然この公演をみつけてチケットをゲットした。

久々の観劇ということもあって、小劇場演劇特有のハイテンションと、知らない固有名詞の羅列に最初ついていけるか心配したが、すぐに入り込めた。

コンプソンズの10周年記念作品でもともとは昨年の緊急事態宣言期間に上演するはずが中止になり。1年おいて今回上演の運びとのこと(そこからかなり改変されているようだ)。コンプソンズをモデルにしたある劇団とその周辺の人々の2010-2020の十年間をおいかけるクロニクル。ヴォネガットの『スローターハウス5』みたいに時間がシャフルされるが、単純なシャフルではなく、それぞれが過去の出来事を夢としてみていて、その夢が混じり合う感じだ。だから、違う時間にいる人物が交錯するし、全体的に記憶が曖昧な中未来の出来事がそれとなくわかっていたりする。起こる出来事は、単純にいってしまえば出会いと別れなんだけど、その中で大きく成長して立場を変える人もいれば、同じ場所をうろうろしている人もいる。十年という時間の重みを感じた。

作・演出の金子鈴幸さんは1990年生まれということだが、まわりを見渡すと客席にはけっこう年配の人もいたりして年代は大きくばらけている。実際に固有名詞がわからないという感想が多くあったのではないだろうか。セリフの中にも「知らない固有名詞の羅列」というのが自虐的な感じで出てくる。同じ固有名詞でも「柴田恭兵」とでは笑ってしまい、過去の観劇を振り返っても固有名詞はかなりの笑いがとれる手段だったことを思い出した。現代は誰もが知る固有名詞がないのはつらいかもしれない。

見た直後よりあとからのほうが心に残る作品だった。観劇のリハビリになった気がする。

作・演出:金子鈴幸/「劇」小劇場/自由席3500円/2021-04-10/★★★

出演:細井じゅん、石渡愛、小野カズマ、金子鈴幸、金田陸、鈴木啓佑、東野良平、星野花菜里、宝保里実、大宮二郎