吉川浩満『理不尽な進化 増補新版 —— 遺伝子と運のあいだ』ebook

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理不尽な(扱いをされてしまいがちな)本だ。

それはタイトルにも責任があって(おそらく本書に興味を持った人の大多数はぼくを含め進化に興味がある人だ)、「進化」と銘打っているにもかかわらず主題が「進化」でないからだ。「進化」に対する人間(その中には専門家も一般人も含まれる)の理解、そしてその理解が必然的に誤解を含んでしまうという「理不尽」に関する本だ。それ以外の科学分野にも少なからず同じような「理不尽」はあるが、「進化」はそれが一番色濃くあらわれる分野なのだ。

第一章「絶滅のシナリオ」と第二章「適者生存とは何か」は伏線をはるための導入部だ。前者では進化のプロセスにおける偶然性が強調され、後者では「進化」を一般人が受容する中でうまれた誤解とその必然性について考察する。第三章「ダーウィニズムはなぜそう呼ばれるか」でようやく本筋。アメリカの古生物学者・進化論者のグールドが提起した進化論の屋台骨ともいえる「適応主義」という方法論に対する異議申し立てと、それに対するドーキンスらの反論が取りあげられる。結論としてドーキンスの反論は非の打ち所がなくグールドは論争に負けたというのが(本人以外の)衆目の一致するところとなった。

終章「理不尽にたいする態度」では、終わったはずのグールドの議論にもう一度光をあてる。グールドは、単なる方法論のはずの適応主義が進化の歴史までも語ろうとするのを「偶然性」を前面に掲げることで、押しとどめようとした。しかしそこから新たな方法論を立ち上げるのはもとより不可能で、そのため彼は自滅してしまった。かなり入りくんだニッチな話ではあるが、「進化」を人間が理解する上で避けて通れない本質的な問題だということがわかってくる。

論理展開に飛躍がなくて冗長さもないのがいい。読み終えたらちょっと思考がクリアになった気がした。

★★★