吉田修一『パレード』

パレード

最初トレンディードラマのノベライズかと思った。

千歳烏山の2LDKのマンションで共同生活する男2人(途中から1人加わって3人になる)、女2人のそれぞれの視点から物語が綴られてゆく連作短編的な構成をとっている。第一章の語り手「杉本良介(21歳)H大学経済学部3年」からは、その部屋に住む誰もが、単純な善人であり、彼らの間には束縛のない友情のようなものがあるように描かれる。ところが章が進んで語り手が入れ替わるにつれ、それぞれの人間に思いがけない(ときに暗い)深みがあることと、同時に、お互いに冷めた利己的な感情を抱いていることが明らかになってゆく。

そして、その冷たさは最後に暴力へと結晶する。

「たとえば、この世界に、もうひとつ東京があったとしたら、そこであの女が倒れているのだとしたら、俺はきっと、すぐにでも彼女を救いにいける」。そして、もうひとつの東京はどこにもない。

★★★