古川日出男『ルート350』

ルート350(サンゴーマル) (講談社文庫)

帯に「初の短編集」と書いてあって、そんなことないだろうと思ったが、そういわれてみればいわゆる短編小説は読んだことがないことに気がつく。というか、なんとなく、ぼくは古川日出男の小説をさんざん読んだ気がしているが、実はまだ数冊しか読んでないのだった。

ほとんどの作品の主人公が小学校高学年から20代前半くらいの少年・少女で、夏期講習キャンプにあらわれたスナイパーとの対決や、開発中で何もなかったころのお台場に閉じ込められて眠りと殺戮が蔓延というようなハードなストーリーから、離婚したばかりの「僕」と偶然会った少女との小さな小さな旅(たぶん『サマーバケーションEP』の母体となった作品)というようなハートウォーミングな話まで多種多様。でもポップな文体は一貫している。

聖家族』を読み終えてしばらくの間、連日カレーを食べる生活を続けた後みたいに、この文体を受けつけなくなっていたのだけど、この本で再びカレーのおいしさに目覚めたような感じだ。やっぱり、古川日出男はいい。

サブカルチャーの要素を主流文学に持ち込んだのは村上春樹の功績だけど、今それを一番豊かに発展させているのは古川日出男だと思う。読んでない本を少しずつ読んでいこう。